コンクリートの寿命と劣化

コンクリートの寿命

一般的にコンクリート構造物のような建築物の寿命については、耐用年数という表現が一般的です。耐用年数には次のような種類があります。
① 法定耐用年数
固定資産の減価償却費を算出するため税法で定められた年数
② 物理的耐用年数
建物躯体(床や壁など、建物の構造を支える骨組)や構成材が、物理的あるいは化学的原因により劣化し、要求される限界性能を下回る年数
③ 経済的耐用年数
継続使用するための補修・修繕費、その他費用が改築費用を上回る年数
④ 機能的耐用年数
使用目的や使用環境によるものや、建築技術の革新、社会的要求が向上して劣化する年数

これらの耐用年数の関係を比較すると、②>③>①>④となるのが一般的です。また、さまざまな基準を総合的に評価して1つの構造として設定する耐用年数のことを目標耐用年数といいます。構造物の寿命は、構造や立地条件、使用状況の違いなどによって左右しますが、規模などに余裕を持った構造物や耐震設計に基づいた構造物は、計画的な保全活動を実施すれば100年以上も長持ちさせることができます。コンクリート構造物の理想的な目標耐用年数としては、次のとおりとしています。
〇建築構造物(高品質の場合):100年(80~120年)
〇建築構造物(通常の品質の場合):60年(50~80年)
〇土木構造物:50年(30~70年)

コンクリートの劣化の種類

コンクリートの劣化とは、人間でいうところの病気といえるでしょう。病気が進行すると体が衰えてしまうように、劣化が進行するとコンクリート構造物の耐久性などが低下してきます。また、鉄筋コンクリート構造物の場合、コンクリート自体の劣化だけでなく鉄筋の劣化もあります。

【主な劣化現象と原因】
内容現象原因
コンクリートの劣化強度劣化配合や施工上の問題による強度不足
ひび割れ乾燥収縮、温度変化の繰返し、アルカリシリカ反応、
凍結融解作用の繰返し、施工不良、水和熱、鉄筋腐食、
火災によるひび割れ、構造的はひび割れ(曲げ・せん断)、
過荷重(大たわみ)、地震、基礎(不同沈下)
表面劣化錆汁、エフロフレッセンス、汚れなど
鉄筋の劣化鉄筋腐食ひび割れ、中性化、塩害など

コンクリートの診断

人間の場合、常に健康に留意した生活や定期的な検診などを心がけていれば病気を予防・治療できる場合が多いでしょう。コンクリート構造物も同様で、劣化に対して適切な診断・処置を行うことで長持ちさせることができます。コンクリート構造物における健康対策としては、土木・建築技術者が診断医となって、構造物の健康状態(劣化や機能低下の有無)を総合的に把握するのが一般的で目視調査などによる非破壊検査が主流です。また、コンクリートの劣化や機能の低下は、単に経年変化のために発生するとは限らず、建設時点では予測しえなかった条件変化や施設を取り巻く環境の変化など、多様な原因が存在します。劣化の原因には、外部要因と内部要因が挙げられますが、実際には複数の要因がかかわっていることが多いです。
〇外的要因
地震、渇水などの自然災害影響、技術の陳腐化、施設利用者ニーズの多様化・高度化、施設周辺立地環境の変化、法律や指針の改正など
〇内的要因
保全管理の不徹底、不適正な使用方法、リスク対策の不備、寿命、性能低下、構造欠陥、当初計画の錯誤、施工不良など

ひび割れ

ひび割れはなぜ起こる
ひび割れはコンクリートに生じる亀裂のことです。大きな地震にあった建物などにひび割れができているのを見たことがある人も多いでしょう。ひび割れはコンクリートの表面だけでなく内部に生じる場合もあります。本来一体となっているべき箇所が割れているわけですから、当然ながら耐久性などにも大きな悪影響をおよぼします。ひび割れが起きる原因はとても多いです。一般的には以下のように分類されますが、実際のコンクリート構造物におけるひび割れの原因は複雑であり、複数の原因が複合している場合が多いです。

【ひび割れの発生原因】

大分類中分類小分類原因
材料使用材料セメント異常凝結、水和熱、異常膨張
骨材骨材中の泥分、低品質骨材、アルカリシリカ反応性骨材
コンクリート塩化物、沈下・ブリーディング、乾燥収縮、自己収縮
施工コンクリート練混ぜ混和材料の不均一、長時間の練混ぜ
運搬ポンプ圧送時の配合変化
打込み不適当な打込み順序、急速な打込み
締固め不適当な締固め
養生硬化前の振動や載荷、初期養生中の急激な乾燥、初期凍害
打継ぎ不適当な打継ぎ処理
鉄筋鉄筋配置鉄筋の乱れ、かぶり(厚さ)の不足
型枠型枠型枠のはらみ(膨らみ、湾曲)、型枠からの漏水、型枠の早期除去
支保工支保工の沈下
その他コールドジョイント不適当な打重ね
使用環境熱、水分作用温度や湿度環境温度・湿度の変化、部材両面の温度・湿度の差、凍結融解の繰返し、火災、表面化熱
化学作用酸・塩類の化学作用、中性化による内部の鉄筋の錆、塩化物の浸透による内部の鉄筋の錆
構造外力荷重長期荷重設計荷重以内の長期荷重、設計荷重超の長期荷重
短期荷重設計荷重以内の短期荷重、設計荷重超の短期荷重
構造設計断面・鉄筋量の不足
支持条件構造物の不同沈下、凍上

ひび割れの種類

①鉄筋腐食先行型
鉄筋コンクリート構造物などで鉄筋腐食が進行した結果生じたひび割れで、中性化や塩害などによって鉄筋に腐食が生じます。その腐食の進行に伴い、かぶりコンクリートがひび割れ、その後短期間のうちにかぶりコンクリートが剥落に至るものです。

②ひび割れ先行型
鉄筋腐食先行型と同様に鉄筋腐食を促進させる原因となるひび割れです。何らかの原因で生じたひび割れが鉄筋位置に達し、そのひび割れから劣化因子が侵入することで鉄筋の腐食が進行します。

③劣化ひび割れ
コンクリート自体の組織が緩み強度低下が生じるもので、放置すると部材の崩壊へとつながる恐れがあるため、劣化自体が生じないように対策を施す必要があります。
劣化ひび割れについては、原因によって次の3タイプに分けられます。

〇アルカリシリカ反応によるひび割れ
鉄筋による拘束が小さい場合は網状のひび割れ、大きい場合は柱や梁の軸方向のひび割れが発生します。

〇凍害によるひび割れ
温度変化や融雪水の影響を受ける部分に発生しやすく、放置しいておくと確実に進行するため、補修や交換処置が必要となります。

〇疲労によるひび割れ
繰返し荷重の影響によりひび割れから剥落へとつながり、一方向のひび割れ→格子状のひび割れ→ひび割れの網細化、貫通→コンクリートの剥落→床板の陥没へと進行していきます。

中性化

中性化とは

つくられたばかりのコンクリートはアルカリ性です。しかし、空気中の二酸化炭素などの影響で、コンクリート内のアルカリ性の水酸化カルシウムが酸性の炭酸カルシウムへと変化し、コンクリート自体がアルカリ性から中性へと変化します。これが中性化という現象です。
中性化が進みアルカリ性が弱くなると、鉄筋コンクリート内の鉄筋の表面を覆っている不動態皮膜には鉄筋の腐食を防ぐ効果があるため、この膜を失うことで鉄筋の腐食が始まってしまうのです。

中性化深さと進行予測

コンクリート表面から内部にかけて中性化が進行している厚さのことを中性化深さといいます。コンクリートの中性化深さは経過年数の平方根に比例することが知られていて、中性化の進行予測は次の予測式で表すことができます。

予測式:y=b√t
 y:表面からの中性化深さ(mm)
 t:時間(年数)
 b:中性化速度係数(mm/√年)

中性化の調査

中性化の調査は、中性化深さ試験により対象のコンクリートがどれくらい中性化を起こしているかを把握することが基本となります。中性化深さ試験では、フェノールフタレインを使った方法が一般的です。フェノールフタレインはアルカリ性に反応すると赤紫色に変色する性質があります。そのため、中性化していないアルカリ性のコンクリートにフェノールフタレイン(フェノールフタレイン濃度を1%に薄めたエタノール溶液が一般的)を噴霧すると、赤紫色に変色します。一方、中性化したコンクリートは変色しません。

中性化深さ試験では、コンクリートの供試体を採取しtrフェノールフタレインを噴霧して変色箇所を確認します。中性化が生じている場合、中性化している表面から内部にかけては変色が見られませんが、中性化していない箇所から赤紫色に変色します。よって、変色しなかった部分の厚さが中性化深さだとわかるのです。

中性化の抑制

鉄筋コンクリートを長い間使い続けていく中で、中性化の発生を完全に防ぐのは困難といえます。そのため、中性化の発生や中性化がコンクリート内部の鉄筋に到達するまでの時間を遅らせることで、構造物の延命をはかるのが一般的です。まず、鉄筋のかぶりをできるだけ大きくとるように設計し、中性化が鉄筋に到達するまでの距離を長くするのが望ましいです。また、水セメント比が小さく密度の高いコンクリートにすることで、中性化の原因となる二酸化炭素がコンクリート内に侵入しづらくなります。

ひび割れなどが生じるとそこが二酸化炭素の侵入経路となってしまうため、養生期間を長めにとってコンクリート表面の乾燥収縮ひび割れを発生させないなど、ひび割れが生じる原因を取り除くことも重要です。また、コンクリート表面の塗装も、二酸化炭素の侵入を防ぐ効果があります。

中性化の劣化対策

中性化による劣化がある程度進行してしまった場合には、次のな方法で補修を行います。

〇表面被覆工法
二酸化炭素の継続的な侵入を防ぐために、樹脂系やポリマーセメント系の材料でコンクリート表面の被覆を行う工法です。

〇断面修復工法
鉄筋腐食が進んだ際に中性化したコンクリートを除去・修復する方法です。腐食した鉄筋の防錆処理も一緒に行います。

〇再アルカリ化工法
中性化したコンクリートのアルカリ度を回復させるため、コンクリートの表面にアルカリ性溶液と外部電極を設置し、コンクリート中の鉄筋との間に約1A/㎡の電流を1週間ほど流すことで、中性化したコンクリートを再びアルカリ性に戻す方法です。

アルカリシリカ反応

アルカリシリカ反応とは

コンクリートで使われる材料のうち、セメントや混和剤にはアルカリ分が含まれています。一方、骨材にはアルカリ反応性鉱物という物質が含まれています。これらが水と反応することによって骨材中のアルカリ反応性鉱物が膨張してしまい、ひび割れを引き起こします。これがアルカリシリカ反応です。

アルカリシリカ反応が起こると、反応性骨材(アルカリ反応性鉱物を含む骨材)の周囲に白色のゲルが生成され、骨材の膨張に伴うひび割れを通じてコンクリート表面にゲルがにじみ出てきます。また、コンクリートにひずみが生じやすくなります。なお、鉄筋を用いていない無筋コンクリートの場合、アルカリシリカ反応によるひび割れは網目状や亀甲状となります。一方、軸方向の鉄筋量が多いコンクリート部材では、部材軸方向にひび割れが発生します。

アルカリシリカ反応の発生条件

アルカリシリカ反応は、反応性骨材、限界値以上のアルカリ分、十分な水分の3条件がそろった場合に進行します。また、アルカリシリカ反応による骨材の膨張は、高温であるほど膨張速度が大きく、低温であるほど最終的な膨張量が大きくなります。なお、反応性骨材の量が多いほどアルカリシリカ反応による膨張も増大しますが、反応成分の割合が一定値を超えると逆に膨張量が減少する傾向を示すことが知られています。このときの割合をペシマム量といいます。

アルカリシリカ反応の予防

アルカリシリカ反応を予防するには、コンクリート中のアルカリ総量の抑制、混合セメントの使用、安全と認められる骨材の使用の3つが基本となります。

〇コンクリート中のアルカリ総量の抑制
反応性骨材を膨張させる原因となるアルカリ分は、コンクリート中の総量を3.0kg/㎥以下にするのが望ましいです。その際はJIS規格でアルカリ分の量が規定されているポルトランドセメントや普通エコセメントを用いることで、コンクリート中のアルカリ総量を把握できます。

〇混合セメントの使用
混合セメントの中で高炉セメントとフライアッシュセメントにはアルカリシリカ反応の抑制効果があります。ただし、セメント中の高炉スラグやフライアッシュの分量が少ないと効果が薄くなるため、A種は使用できません。また、高炉セメントB種での高炉スラグ分量は40%以上、フライアッシュセメントB種でのフライアッシュ分量は15%以上必要です。C種であれば問題なく使うことができます。

〇安全と認められる骨材の使用
骨材については、アルカリシリカ反応性試験によってアルカリシリカ反応に対する安全性を判定できます。判定結果に応じで区分Aと区分Bに分けられ、区分Aに該当した骨材は安全と認められます。

【アルカリシリカ反応性試験による区分】
区分摘要
Aアルカリシリカ反応性試験の結果が無害と判定されたもの。
Bアルカリシリカ反応性試験の結果が無害と判定されないもの、または、この試験を行っていないもの。

なお、使用する骨材の中に区分Bのものを混合させた場合には、骨材全体を「無害であることが確認されていない骨材」として取り扱わなければなりません。

アルカリシリカ反応の劣化対策

アルカリシリカ反応による劣化がある程度進行してしまった場合には、次のような方法で補修を行います。

〇表面被覆工法
アルカリシリカ反応の原因となる水分がコンクリート内に侵入するのを食い止めるため、樹脂系の材料などでコンクリート表面の被覆を行う方法です。

〇含浸材塗布工法
撥水系の材料をコンクリート表面に塗ることで、表面被覆工法と同様に、コンクリート内への水分の侵入を防ぐ方法です。

〇ひび割れ補修工法
発生したひび割れを補修する方法の総称で、ひび割れの規模に応じてひび割れ被覆工法、注入工法、充填工法などが使い分けられます。

〇巻立て工法
劣化が進んでいるコンクリート部材の周囲に補強材を巻き付けて一体化させる方法です。補強材には鋼板や繊維強化プラスティックなどが使われます。

〇断面修復工法
劣化が進んでいるコンクリートを除去・修復する方法です。

塩害

塩害とは

塩害は、コンクリート表面から侵入した塩化物イオンが水と酸素と反応することで鉄筋を腐食させる現象です。ひび割れが生じて耐荷性能や耐久性の低下を引き起こします。塩害が発生する主な原因としては、内在塩分によるものと外部供給によるものの2点が挙げられます。

〇内在塩分
コンクリート製造時に、海砂の骨材や塩化物イオンを含む混和剤などを使用することで塩化物イオンが混入するケースです。

〇外部供給
海水や凍結防止剤などにより、コンクリート表面から塩化物イオンが侵入するケースです。

塩害の抑制

塩害を抑制するためには、発生原因である内在塩分を減らし、外部供給を断つことが重要となります。まず、海砂などの塩分を含む材料の使用をできるだけ避け、コンクリート中に含まれる塩化物イオン量は0.3kg/㎥以下にします。これは、レディーミクストコンクリートの受け入れ検査などでの基準にもなっています。また、コンクリート表面に合成樹脂表面被覆材を塗ることで、塩害の原因となる水分や空気(酸素)の継続的な侵入を防止できます。鉄筋コンクリートの場合、合成樹脂を塗装した防食鉄筋を使用したり、鉄筋のかぶりを大きくしたりするのも有効です。

塩害の劣化対策

塩害による劣化がある程度進行してしまった場合には、次のような方法で補修を行います。

〇表面被覆工法
塩化物イオンの継続的な侵入を防ぐために、樹脂系やポリマーセメント系の材料でコンクリート表面の被覆を行う方法です。

〇断面修復工法
劣化が進んでいるコンクリートを除去・修復する方法です。腐食した鉄筋の防錆処理も一緒に行います。

〇電気防食工法
コンクリートを介して鉄筋に防食電流を供給することで、鉄筋表面の腐食反応を停止させる方法です。

〇脱塩工法
仮設した外部電極とコンクリート中の鉄筋との間に直流電流を流す方法です。コンクリート中の塩化物イオンを除去できるだけでなく、鉄筋表面に不動態皮膜を形成する効果もあります。

〇巻立て工法
劣化が進んでいるコンクリート部材の周囲に補強材を巻きつけて一体化させる方法です。

凍害

凍害とは

水が凍結すると、体積が約9%膨張するという性質があります。凍害はコンクリート中の水分が凍結によって膨張し、コンクリートの内部から損傷を与える現象です。コンクリート内部からひび割れなどが発生することが特徴といえます。また、昼夜などに0℃を前後するような温度差が生じると、水分の凍結による膨張と融解による収縮が繰り返されるため、コンクリート内部の損傷が蓄積していきます。

凍害が引き起こす劣化現象

凍害が発生したコンクリート構造物では、次のような劣化現象が引き起こされます。

〇ポップアウト
骨材の品質が悪い場合に起こりやすい現象で、表層下の骨材粒子などに含まれる水分の凍結膨張によって、コンクリート表面に円錐状のくぼみのような剥離が起こります。

〇微細ひび割れ
紋様や地図状のようなひび割れです。

〇スケーリング
コンクリート表面が薄片状に剥離・剥落して削られていく現象です。

〇崩壊
小さな塊や粒子状にコンクリートが崩壊していく現象です。

凍害の抑制

凍害はコンクリート中の水分の凍結が原因となるため、コンクリート中の水分を減らしたり外部から水分の侵入を防いだりすることが重要です。
材料や配合については、水セメント比は小さくするのが基本です。粗骨材は吸収率が3%以下のものを選ぶとよいでしょう。また、コンクリート表面に防水処理などを施して、外部からの水分の浸透を防ぐことも有効です。
さらに、AE剤の添加によってエントレインドエアを増加させると、コンクリート中の水分が凍結して膨張した際の逃げ道の役割を果たします。なお、コンクリートを乾燥状態にすると凍害が生じにくくなります。乾燥収縮ひび割れが生じない程度に乾燥させることも有効です。

凍害の劣化対策

凍害による劣化がある程度進行してしまった場合には、次のような方法で補修を行います。

〇表面被覆工法
凍害の原因となる水分の侵入を食い止めるため、樹脂系の材料などでコンクリート表面の被覆を行う方法です。

〇含浸材塗布工法
撥水系の材料などをコンクリート表面に塗ることで、表面被覆工法と同様に、水分の侵入を防ぐ方法です。

〇ひび割れ補修工法
コンクリート表面まで進行したひび割れを補修する方法の総称です。ひび割れの規模に応じてひび割れ被覆工法、注入工法、充填工法などが使い分けられます。

〇断面修復工法
劣化が進んでいるコンクリートを除去・修復する方法です。特にスケーリングやポップアウトなどの剥離が生じているような、損傷の大きいコンクリートに対して実施します。鉄筋の腐食が生じている場合には、防錆処理も一緒に行います。

〇巻立て工法
劣化が進んでいるコンクリート部材の周囲に補強材を巻きつけて一体化させる方法です。補強材には鋼板や繊維強化プラスティックなどが使われます。

化学的浸食

化学的浸食とは

化学的浸食とは、外部から浸食してきた化学物質とコンクリートが化学反応を起こし、劣化をもたらす現象です。どのような劣化が生じるかは化学物質の種類によって異なりますが、次の3つのパターンに分類することができます。

①水和物との化学反応によるコンクリート組織の分解・多孔質化
化学物質がコンクリート中の水和物と化学反応を起こし、本来は不溶性である水和物を可溶性の物質に変化させることによって、コンクリート組織が分解したり多孔質化したりする劣化パターンです。このパターンの劣化を引き起こす化学物質には、酸や同植物油、無機塩類、腐食性ガス、炭酸ガスなどがあります。

②水和物との化学反応で生じた膨張性化合物によるコンクリート内部の損傷
化学物質がコンクリート中の水和物と化学反応を起こし、新たな膨張性化合物を生成して生成時の膨張によりコンクリート内部を損傷させる劣化パターンです。このパターンの劣化を引き起こす化学物質には、同植物油や硫酸塩、海水、アルカリ濃厚溶液などがあります。

③水和物の成分の外部への溶脱によるコンクリート組織の分解・多孔質化
コンクリート中の水和物の成分が外部の水溶液に溶け出してしまい、コンクリート組織が分解したり多孔質化したりする劣化パターンです。コンクリートが長期間にわたって水溶液などに浸っている場合に生じることがあります。また、化学的浸食を引き起こす化学物質の種類と浸食の特徴は下表のとおりです。

【化学的浸食の原因物質と特徴】
化学物質特長
・浸食が表面から徐々に内部へ向かって進行する。
・酸が強くなるほど(pHが低くなるほど)、温度が高いほど、浸食の程度は大きくなる
アルカリ・非常に濃度の高い水酸化ナトリウムの場合、浸食が大きい。
・乾燥や湿潤の繰返しがある場合に劣化が激しくなる。
塩類・硫酸塩による化学的腐食が代表的。
・硫酸浸食においては、コンクリートは硫酸との接触により酸としての作用を受け、硫酸塩としての作用による浸食が生じた後にエトリンガイトを生成する。その結果、著しい膨張を引き起こす。
油類・酸性物質を含まない鉱物油の場合はほとんど浸食しない。
・同植物油のように多くの遊離脂肪酸を含有する場合には、酸として作用しコンクリートを浸食する場合がある。
腐食性ガス・塩化水素やフッ化水素、二酸化硫黄は水に溶けて酸を生成することによりコンクリートを浸食する。
・硫化水素は、硫黄酸化細菌の作用などによって酸化されて硫黄酸化物となり、水に溶けて酸を生成しコンクリートを浸食する場合と、カルシウム化合物と反応して易溶性のカルシウム塩を生成し、コンクリートを侵食する場合とがある。

化学的浸食の抑制と劣化対策

化学的浸食では、抑制や劣化対策の両面において、コンクリート内部に化学物質を取り込ませないことが重要です。そのため、あらかじめコンクリートの表面処理を施して、化学物質の侵入を防止するのが有効となります。また、化学的浸食が進行してコンクリートの劣化などが生じてしまった場合には、劣化箇所のコンクリートを除去・修復する断面修復工法を行うことも必要です。さらに、鋼板や繊維補強プラスティックを補強材に用いた巻立て工法を実施して、耐荷力などを改善させる場合もあります。

非破壊検査

非破壊検査とは

コンクリート構造物の劣化状況などを調べる方法はいろいろありますが、大きく分けると非破壊検査と破壊検査に分類できます。これは調査に伴って構造物を傷つけるか否かの違いによるものです。非破壊検査は、目視による方法などを含めたものが該当します。検査項目や測定内容によって方法が複数あり、具体的には下表のようにまとめられます。

【主な非破壊検査】
検査項目測定内容検査方法
外観劣化状況/異常個所目視/カメラ/赤外線
変形全体変形/局部変形メジャー/レーザー
強度コンクリート強度/弾性係数コア試験/反発度
ひび割れ分布/幅/深さデジタルカメラ/赤外線/超音波
背面コンクリート厚/背面空洞電磁波レーダー/打音
有害物質中性化/塩化物イオン/アルカリ
シリカ反応
コア試験/試料分布
鉄筋かぶり/鉄筋間隔電磁波レーダー/X 線
外観検査の例

外観検査の一環として実施される目視検査では、ひび割れなどの損傷が生じている箇所の周囲をハンマーでたたき、そのときの反応音から剥離などを把握する方法などが用いられます。

強度検査の例

非破壊検査による強度検査では、リバウンドハンマーという器具でコンクリート表面を打撃し、得られた反発度から圧縮強度を測定する方法(反発度法)などが用いられます。

鉄筋検査の例

コンクリート中の鉄筋位置や寸法の把握、かぶりの測定などでは、鉄筋探査機と呼ばれる装置で電磁波レーダーをコンクリート内部に放射し、鉄筋などの埋設物の状態を把握する方法(電磁波レーダー法)などが用いられます。

コア抜き検査

コア抜き検査とは

コンクリート構造物に生じている劣化の状態を調べるため、その構造物からコンクリートの供試体(コア)を取り出して実施する検査をコア抜き検査といいます。

コンクリート片を直接調べるので劣化状態を把握する方法としては最適ですが、構造物からコンクリートの一部を抜き取るわけなので、構造物に損傷を与えることとなります。そのため、どの箇所を供試体に使用するかは慎重に決めなければなりません。なお、供試体の採取にはコアドリルと呼ばれる専用の機器が使われます。

コア抜き検査の例

コンクリートにおけるコア抜き検査の代表例としては、圧縮強度試験が挙げられます。構造物のコンクリート強度については、使用されたコンクリートの施工時の品質管理データによってある程度は把握できますが、施工状況や環境状況によって実際の数値は異なるのが実情です。そのため、供試体を用いて強度を把握するのが最も正確といえます。

供試体採取の流れ

供試体を採取して圧縮強度試験などにかけるまでの主な流れは次のとおりです。

【供試体の強度の調査手順】

供試体径および供試体採取箇所(柱や壁など)の選定

鉄筋位置、間隔、かぶりの推定

供試体の採取位置の決定

供試体の採取

供試体の整形およびキャッピング等
※キャッピング:供試体に鋼製キャップを取り付けること

圧縮強度試験などの実施

試験結果の整理・分析

供試体の採取がコンクリート構造物自体に悪影響をおよぼさないように、供試体の採取では次の原則や規定を守らなければなりません。
・ひび割れなどの欠損部やその付近での採取は避けます。
・柱や壁など鉛直部材での採取は、打設下面から1.3mから1.5mの位置を標準とします。
・鉄筋探査機などで鉄筋の位置を把握して、採取の位置にあたらないようにします。
・JIS A 1107では「コア供試体の直径は、粗骨材の最大寸法の3倍以下にしてはならない」と規定していて、3倍超とします。つまり、粗骨材の最大寸法が25mmの場合、供試体の直径は75mmではなく100mmとすることが原則です。

圧縮強度試験

圧縮強度試験は、採取した供試体に上から圧縮荷重を加えることで供試体の圧縮強度を調べる検査方法です。圧縮強度試験の方法についてはJIS A 1108で次のように規定されています。
・レディーミクストコンクリートは、荷卸し地点で強度試験用の供試体を試験材齢に応じて、3本または6本採取します。
・供試体は直径の2倍の高さをもつ円柱形とし、直径は粗骨材の最大寸法の3倍以上かつ100mm以上とします。供試体の直径の標準は100mm、125mm、150mmです。
・粗骨材の最大寸法が40mmを超える場合には、40mmの網ふるいでふるって40mmを超える粒を除去した試料を使用します。

供試体の圧縮強度試験では、採取したコアをJIS既定のサイズに整形したのち、荷重が面に対して均一にかかるように両端を研磨などにより平滑にします。また、ゴムパッドと鋼製キャップを用いたアンボンドキャッピングなども使用可能です。採取した供試体が十分な高さを得られない場合、高さ(h)と直径(d)の比を1:1以上にできれば試験は可能です。その場合、強度が大きめに出るため、次の補正係数を掛け合わせたものを圧縮強度とします。

【補正係数】

高さと直径の比(h/d)補正係数
2.001.00
1.750.98
1.500.96
1.250.93
1.000.87
引張強度試験

コンクリートの引張強度を調べる引張強度試験では、割裂引張強度試験と呼ばれる方法が標準です。この試験は、供試体を横に配置して上下から圧縮荷重を加えることで、供試体の中心軸を含む鉛直面に引張応力を均一に生じさせる方法です。
なお、割裂引張強度試験はJISでも主要な引張強度試験方法と位置付けていて、JIS A1113で規定しています。

曲げ強度試験

コンクリートの曲げ強度を調べる曲げ強度試験では、3等分点載荷法という方法が標準的に使われています。これは、直方体状の供試体の幅を3等分した際の位置に圧縮荷重を加え、その際に生じる最大曲げモーメントから曲げ強度を把握する方法です。