コンクリート構造の分類

3種類のコンクリート構造

構造物に採用されるコンクリート構造には、鉄筋コンクリート構造、プレストレストコンクリート構造、無筋コンクリート構造の3種類があります。それぞれ次のような用途で使い分けられます。
①鉄筋コンクリート構造
圧縮力と引張力に対し、コンクリートと鉄筋が一体となって抵抗する構造で、マンションなどに採用されます。
②プレストレストコンクリート構造
長い支間長の橋梁など、大きな引張力がかかる構造やひび割れを許容しない構造物に採用されます。
③無筋コンクリート構造
ダムや擁壁、トンネルなどの自重によって安定して、引張力がかからない構造物に採用されます。

鉄筋コンクリート構造とは

コンクリートは圧縮力には強くて耐久性に優れているものの、引張力に弱い材料です。一方、鉄筋は引張力には強いですが、圧縮力に弱く、また腐食すると劣化が速いという弱点があります。これら正反対の性質をもつコンクリートと鉄筋を一体にして、お互いの弱い性質を補い合うことで圧縮力にも引張力にも強くなった構造が鉄筋コンクリート構造です。RC構造とも呼ばれます(RC:Reinforced Concreteの略)。19世紀に半ばに、フランスの植木職人ジョセフ・モニエがコンクリートに鉄筋を配置する特許を取得したのが始まりといわれています。

鉄筋コンクリート構造では、鉄筋でしっかりと骨組みをつくることで幅広い形状に対応できます。また、鉄筋は容易に入手でき、建設コストも比較的低いです。一方、鉄筋によって弱点は補っているものの引張力に対する強度には限界があり、大きな引張力が生じる環境下では小さいひび割れが発生しやすいです。また、所要強度を発現するまでに時間がかかり、鉄筋工事も必要となるので工期はやや長くなります。さらに、構造物を撤去する際の処理費用が高いという短所もあります。

プレストレストコンクリート構造とは

コンクリートは引張力に対する抵抗性がもともと低いため、鉄筋を入れても引っ張りを原因とするひび割れが生じてしまう場合もあります。そこで、PC鋼材を用いてコンクリート自体にあらかじめ圧縮力がかかった状態とすることで、引張力によるひび割れを生じさせないようにしたものがプレストレストコンクリート構造です。PC構造とも呼ばれます(PC:Prestressed Concreteの略)。なお、「プレストレス」とはあらかじめストレスがかかった状態を意味します。ほかの構造よりもひび割れが生じにくいだけでなく、部材断面が小さくなるので大スパンに有利という長所があります。誰でも容易に扱えるものではありません。また、構造物が損傷した際の補修や復旧が、ほかの構造よりも困難であることも短所といえます。

無筋コンクリート構造とは

無筋コンクリート構造は、その名のとおりコンクリート内部に鉄筋を入れないコンクリート構造です。引張力を向上させる鉄筋を含んでいないため、当然ながら引張力は弱いです。その一方で、鉄筋の腐食を原因とした劣化が生じないため、コンクリート本来の耐久性を維持しやすいことが強みです。また、鉄筋工事が不要となるので短い工期でつくることができ、費用も安いのが大きなメリットです。さらに、解体なども比較的容易に行うことができます。また、無筋コンクリート構造は、どれだけ部材が厚くなっても問題のない構造物に適しています。さらに、安定させるためにどっしりと大きな自重が必要で、かつ引張力の影響を受けない環境ということで、ダムや擁壁などの長期にわたって使用される構造物に採用されています。

鉄筋コンクリートで用いられる構造形式

鉄筋コンクリートの主な構造形式

構造物における柱や梁、壁などの組み合わせの仕様を構造形式といいます。鉄筋コンクリート構造での主な構造形式として壁式構造、ラーメン構造、トラス構造、アーチ構造などがあり、用途によって使い分けられています。
〇壁式構造
建築などでよく用いられているのが壁式構造です。柱には梁がなく、壁の面全体で外力を受ける構造になっていて、重量が比較的重くなるため低層の構造物に用いられます。また、開口部が少ないため耐震性に優れています。
〇ラーメン構想
ラーメンとはドイツ語で「枠」の意味があり、最も一般的な構造形式です。柱と梁が一体となった剛接合が特徴で、外力により発生した部材を曲げる力を接合部に伝達して、全体で強度を保ちます。
なお、ラーメン構造は、柱と梁で構成される純ラーメン構造と耐震壁を組み込んでいる耐震壁付きラーメン構造に分類することができます。
〇トラス構造
トラスとは3つの部材を三角形に組み、それぞれの部材が交わる点が回転するようにピン接合された構造形式です。外力がかかった際に、部材を曲げる力が発生しないので、長い橋やタワーなど、規模の大きな構造物に用いられます。
〇アーチ構造
上からかかる外力を曲線状のアーチ部へ圧縮力として作用させる構造です。この構造もトラス構造と同様に部材を曲げる力がほとんど発生しないので、大空間を確保したい橋などに用いられます。

構造形式の用途例

〇空間を確保するカルバートとして利用
道路の下に水路や通路用の空間をつくるために、盛土あるいは地盤内に設けられる構造物をカルバートといいます。鉄筋コンクリートのラーメン構造が使われ、剛性カルバートと呼ばれます。また塩ビ管などでつくられるたわみ性カルバートもあります。
〇斜面の崩壊を防ぐ擁壁としての利用
擁壁とは斜面の崩壊を防ぐために設ける壁のことです。高さや立地条件、作用する荷重(自動車、宅地)条件などによってさまざまな種類の擁壁が使われていて、つくり方も異なります。主な擁壁として、ブロック積み擁壁や重力式擁壁、片持ち梁式擁壁、U字擁壁などがあり、それぞれさらに細かく分類されています。特に片持ち梁式擁壁の中の逆T型擁壁やL型擁壁は安定性が高い構造で、高さを必要とする擁壁などに適していて、壁式構造が使われます。

鉄筋コンクリートの予備知識

構造力学の基礎知識

鉄筋コンクリート構造物を利用するうえで、構造力学の基礎知識を理解しておくことが重要です。構造力学を簡単に説明すると、「外力を受けた構造物が内部でどのように変形するか」を数値で示したものです。以下では、基本的な力とそれによって内部に発生する力の度合い(応力)について解説します。
〇圧縮力
部材を両端から押す力が圧縮力です。この圧縮力によって部材内部に発生する力の度合いが圧縮応力度で、部材に働く圧縮力(P)をその断面積(A)で割って算出されます。
圧縮応力度 = P/A
〇引張力
圧縮力とは反対に、部材を引っ張る力が引張力です。この引張力で部材内部に発生する力の度合いが引張応力度で、部材に働く引張力(T)をその断面積(A)で割って算出されます。
〇せん断力
部材に対して直角方向に切断しようとする力がせん断力です。このせん断力で部材内部に発生する力の度合いがせん断応力度で、部材に働くせん断力(S)をその断面積(A)で割って算出されます。
せん断応力 = S/A
〇曲げモーメント
両端に支店がある梁に外力(P)が働くと、部材の中央部に曲げ力が発生します。上部には圧縮応力、下部には引張応力が生じ、このときに働く曲げ変形の作用を曲げモーメント(M)といいます。なお、曲げの力が発生した際には、部材の中で圧縮力と引張力のどちらも起こっていない箇所が軸状に生じます。この軸を中立軸といいます。
外力を受けたとき、部材に働く各種の応力を理解するには、梁が最もわかりやすい例となります。梁のタイプと外力、応力の発生を理解しておけば複雑な計算に応用がきき、構造物の弱点(応力が発生する位置、ひび割れが発生しやすい部位、鉄筋が密に入っていなければならない場所など)が予測できます。
なお、梁の種類としては単純梁、両端固定梁、片持ち梁に分かれます。
〇単純梁
一端が移動支点、もう片端が回転支点で構成される構造物。
〇両端固定梁
両端が固定支点で構成される構造物。
〇片持ち梁
一端が固定支点、もう片端は動くことのできる構造物。

鉄筋の種類
〇主筋
引張応力に抵抗する鉄筋として、曲げひび割れが発生するおそれのある場所に配筋します。
〇配力筋
気温の変化によるひび割れの発生、地震および外力からの衝撃などの予想外の応力の発生などに対応するため、圧縮側に配置する鉄筋です。
〇帯筋(フープ筋)
柱のせん断補強の役割があります。
〇あばら筋(スターラップ)
柱のせん断補強の役割があります。

鉄筋が有効となるコンクリートのひび割れ

〇曲げひび割れ
せん断応力がほとんど生じない位置で起きるひび割れで、下端から上端に伸びる
特徴があります。
〇曲げせん断ひび割れ
せん断応力より曲げ応力がおおきい位置で起こるひび割れで、下端から上方および荷重点へと向かう特徴があります。
〇せん断ひび割れ
せん断応力が大きい位置で起こるひび割れで、中立軸から荷重点に45°前後の方向へ向かって伸びる特徴があります。

プレストレストコンクリートの施工

プレストレスを与える2つの方法

プレストレストコンクリートは、コンクリートの引張りに対して弱点を補うため、外力によって引張応力の生じる部分にあらかじめ計画的に圧縮力(プレストレス)を与え、外力が作用したときに生じる引張応力を打ち消すようにしたものです。プレストレスを与える緊張材には鉄筋の2~4倍の引張強度を持つPC鋼材を用い、コンクリートには高強度で早強性のあるセメントを使用します。プレストレスを与える方法としては、プレテンション方式とポストテンション方式の2通りの方法があります。「プレ=先に」「ポスト=後で」を意味していて、プレストレスを与えるタイミングに基づく呼び方です。

プレテンション方式

プレテンション方式は以下の手順で行われます。
① 反力台と可動定着板を設置し、ジャッキによりPC鋼材を引っ張って緊張させます。
② PC鋼材を緊張させたままコンクリートを打設します。
③ コンクリートが硬化した後に、PC鋼材を切断してPC鋼材の緊張を解放します。PC鋼材を解放することにより、コンクリート内に圧縮力が作用します。

ポストテンション方式

ポストテンション方式は以下の手順で行われます。プレテンション方式と異なり、発生した緊張力は定着具によって保持されます。
① 型枠にシース管を配置しておき、コンクリートを打設後、養生して硬化させます。
② コンクリート硬化後、定着具とジャッキを装着し、PC鋼材を引っ張って緊張させることで梁の中に圧縮力が作用します。
③ 緊張させた後に、シース管内にグラウト(セメントペーストやモルタルをベースとした注入剤)を注入し充填させます。
ポストテンション方式で用いる定着具は、PC鋼材がPC鋼棒の場合に使われるねじ式とPCより線の場合に使われるくさび式の2種類があります。

コンクリート製品(プレキャストコンクリート)

コンクリート製品とは

コンクリート製品とは、工場の製造設備でつくられたコンクリート二次製品のことで、プレキャストコンクリートとも呼びます。擁壁、ボックスカルバート、オープン水路、橋梁用PC桁、杭などさまざまな構造物があり、プレストレストコンクリート、高強度コンクリートなどにも対応しています。

コンクリート製品を利用する理由

材料費や製造費の面から考えると、実はコンクリート製品は高価です。しかし、多くの工事現場でコンクリート製品が積極的に使用されています。その理由としては、施工にかかる費用まで含めて考えると、コンクリート製品のほうが低コストで済むためです。同じ構造物を作成する場合において、現場打ちコンクリートとコンクリート製品でかかるコストを比べてみると、一般的には次のようになります。
〇現場の施工費:現場打ちコンクリート>コンクリート製品
〇材料費+製造費:現場打ちコンクリート<コンクリート製品
構造物単体では、現場打ちコンクリートのほうが安価です。ただし、現場打ちコンクリートの施工は、天候に左右されるうえ、工事工程に日数を要し、多くの人の手が加わるので現場での施工費がかさみます。つまり、トータルコストでみると、コンクリート製品のほうが安価となる場合が多いのです。これは、施工量(使用する製品量)が多いほど顕著になります。なお、コンクリート製品が使用しにくい現場としては、特殊な形をしていてあらためて工場で製作するととても高価になる、大型の構造物である、製品の据え付けにクレーンを使用するスペースがないなどのケースが挙げられます。

コンクリート製品の特長

コンクリート製品の主な特長は以下のとおりです。
〇品質を一定に保つことができるとともに、使用前に検査できる。
〇材料、配合、製造設備、施工などの管理が良好に行える。
〇熟練した作業員により常時製造できる。
〇製造、運搬、組み立てなどの作業が機械化でき、省力化が可能である。
〇作業の容易な場所でコンクリートの打込みができ、天候に左右されない。
〇かぶり厚さが小さく、断面を薄くできる。
これらの特長は、近年の建設就業者数の高齢化や減少、建設資材の高騰など、材料費より労働量を抑えることが重要視されている現場において、常に求められている条件とも合致しています。

その他のコンクリート製品

ボックスカルバートや擁壁以外にも、以下のような製品があります。いずれも、工期短縮、品質の確保、小規模化などの特徴があります。
〇防火水槽
地中に埋設して、消防用用水を貯水しておく施設です。消防法では40㎥貯水する必要があり、現場打ちに比べて早期に工事が完了できます。最近では耐震性を有しているものもあります。

〇アーチカルバート
コンクリート製品でつくられていて、この上に盛土をして橋梁、道路としての空間を確保します。

コンクリート製品の材料と配合

コンクリート製品の製造も、基本的には現場打ちコンクリートと変わりません。環境の整っている工場での製造により高い品質が確保できますが、それに見合った材料や配合が必要です。
セメントは普通ポルトランドセメントを使用しますが、プレストレストコンクリート製品には早強ポルトランドセメントが使われます。粗骨材の最大寸法は40mm以下とし、工場製品の2/5以下で、かつ鉄筋の最小あきの4/5以下とします。
配合は、水セメント比50%以下、スランプ2~10cm程度で、単位セメント量を多めとするのが一般的です。
補強鋼材としては、鉄筋コンクリート用棒鋼、溶接金網、PC鋼棒を主に使用します。一方、型枠には繰り返し使用しても寸法精度を保てるように、鋼製型枠が使われます。

コンクリート製品の成形

コンクリート製品を成形する際のコンクリートの打込みの方法については現場打ちとほとんど違いがありません。一方、締固めでは振動締固め、遠心力締固め、加圧締固め、真空締固めなどの方法が使われます。
〇振動締固め:内部型あるいは外部型の振動機を使用する方法
〇遠心力締固め:型枠の高速回転により加圧させ、コンクリートを高密度化して水分を絞り出し、水セメント比を低下させる方法
〇加圧締固め:振動台で成形し、直接加圧により水分を絞り出す方法
〇真空締固め:真空ポンプにより減圧を行い、大気圧との差により余剰水を抜く方法

コンクリート製品の養生

コンクリート製品の養生では、コンクリートの硬化や強度発現を促進させる促進養生を行った後に湿潤養生を行うのが一般的です。
促進養生は2段階に分けて実施されます。最初に行うのが常圧蒸気養生で、この養生の終了後に型枠を外し、二次養生としてオートクレーブ養生を行います。
〇常圧蒸気養生
成形したコンクリートを加湿加温して強度発現を促進するもので、練混ぜ後2~3時間とし、温度上昇速度は1時間につき20℃以下とし、最高温度は65℃とします。
〇オートクレーブ養生
10気圧180℃の高温高圧蒸気釜の中で養生するもので、シリカ質微粉末を使用して高強度コンクリートができます。

コンクリート製品を用いた現場施工

コンクリート製品は、工場で製造された製品を現場まで運搬し、クレーンで吊って据え付けます。